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ゆらちもうれ
「ゆらちもうれ」は、奄美・徳之島の言葉で「ゆっくりしていきなさい」という意味です。 ちょっと一休みして、食の現場からの直送レポートを楽しんでいただけたらと思います。
2005年 2006年 2007年 
このページの記事は、2005年4月から2007年3月まで、全国の食をテーマにした各地の新しい取り組みを「毎日新聞」のデジタルメディア「ゆらちもうれ」で、毎週、写真付きで紹介したものです。
第86回 学校と地域で子供の食育に取り組む 徳之島・神之嶺小
小学校の全景。豊かな環境に恵まれている

 長寿で知られる奄美諸島。その島のなかで奄美大島についで2番目に大きいのが徳之島である。周囲82キロメートル、2万7000名が住んでいる。島には伊仙町、天城町、徳之島町の三つの町がある。伊仙町では、島の若い世代に生活習慣病が広がり、長寿年齢を下げているという実態が保健センターの調査から浮かび上がり、食生活から暮らし全体の見直しと健康作りの運動が地域で大きく動き始めたことを前々回(84回で掲載)伝えた。

 運動の中心となった1人、保健センター所長の澤佐和子さんに、ぜひ行ってほしいと言われたのが、徳之島町の神之嶺小学校である。徳之島町の南東部にある小学校に向かうと、周辺は一面のサトウキビ畑。その上には一面の青空が広がっていた。サトウキビの畑に囲まれて学校があった。グランドには芝生があり、ガジュマルの木があって、緑にあふれていて広々としている。子供たちがのびのびと野球をしている。学校に入ると中は木造建築で、廊下も教室も木で囲まれて、とても落ち着いた雰囲気である。子供たちの教育環境には申し分ない。なんともぜいたくな空間なのである。教室には最新のパソコン教室もある。

児童たちの野菜畑で富永先生

 校長室で迎えてくださったのは、養護教諭の富永君代さん、それに有馬勝広校長。学校は、7学級で全生徒62名。第46代横綱、朝潮関の学び舎で、創立110年を迎えるという。神之嶺小学校は、学業ばかりでなく、スポーツも盛んで、また伝統的な島の踊りの継承活動も行われている。さらに学校と地域全体で、子供の食育に力を入れて取り組まれているという。

 島では学校の通学に親が車で送迎するのは珍しくない。しかし、運動不足の傾向が明らかになってから、親たちに呼びかけて、できるだけ歩いての登下校の習慣をつけてもらうようにしたという。また学校の調査で、本土と同じように朝ごはんの欠食や、洋食化の傾向があることから和食を取り入れてもらうように働きかけているという。伊仙町での健康調査のことが新聞で大きく報道されたこともあって、親たちも非常に協力的だという。

 「学校教育、家庭、地域の調和がないと、子供たちの知徳、徳育、体育は育たない。この学校は110年の迎えますが、これまで非常に教育熱心で力を入れてきた歴史があります。この地域の教育力を生かしたい。私の父は教師で、かつて中学、高校と徳之島に住んだことがあります。その頃に比べると、子供たちの食生活も環境も変化しました。子供たちの食生活も、本土のものが入ってきて全国同じようになっている。徳之島のよさが失われようとしている。家庭での食事を通してコミュニケーションや労力や体力、思いやりにつながるのではないでしょうか。食は基本の生活にあるもの。重要な要素だと考えています」と有馬校長。

 学校全体の授業に食と健康作りのカリキュラムがふんだんに盛り込まれている。例えば、4年生の国語では「噛(か)むことの力」が取り上げられ、かむことが消化ばかりでなく脳の働きと体作りにつながることが授業になった。5年の社会では、「どきどきわくわく探検日本列島」で、米の生産から流通、水産業から、輸入や食糧事情が授業に取り入れられた。2年生の授業「野菜を育てよう」では、野菜栽培が行われた。

児童62名で、このグランドの広さ!

 学校のグランドの隅には畑があり、そこでピーマン、ナス、ミニトマト、ソラマメなどを育てて、成長を観察し食べる授業が行われている。自ら育てた野菜を食べることで、野菜嫌いの児童が食べられるようにもなった。地域と連携した農業体験も実施されている。平成16、17年は、学校の周辺で栽培されている島の主産業のサトウキビから生まれる黒糖の作りを行った。18年は、大豆を栽培して豆腐作りを行った。職員も児童に教えるために徳之島農業高校で、豆腐加工を学んだという。また学校の全体で、食や健康や生活習慣に関する授業がきめ細かく取り入れられている。

 そればかりではない、健康調査や朝ごはん、夕ご飯、給食の残渣(ざんさ)の調査なども行われた。その結果、朝ごはんをときどきしか食べない子供や、給食で残す子供もいることがわかり、親たちが参加する年一回の地域教育懇談会や年二回の学校保健委員会で、親たちの協力を呼びかけた。

5年生の総合学習で児童が研究したタバコとアルコールの害

 驚いたのは、5,6年生の総合学習の時間である。平成16年度、5年生は「健康にたくましく生きる」をテーマに「睡眠」「栄養」「運動」「病気」の4班にわかれて課題研究を行い発表した。17年は「たばこ」「アルコール」「薬物」の害である。特に「たばこ」「アルコール」は、島でも生活習慣病のまん延の要因として大きくクローズアップされたものだ。6年生は「命を輝かす」がテーマ。16年度は「三大疾病」「胎児の成長」「運動」が研究課題。17年は、「運動」「人権」「福祉」「健康」である。これらの活動が認められ平成18年度徳之島地区学校保健研究の優良校に指定された。

 これら一連の活動に尽力してきたのが養護教諭の富永さんだ。「私は平成16年に赴任してきました。島は医療機関も専門のところが少ない。皮膚科、外科も予約しないと行けない。そうなると、これは病気になる前の予防がもっとも大切だなと、そこで健康作りの上で食育に着目し、それを取り入れることを校長とも相談して始めたのです。また平成18年には徳之島地区学校保健研究会があることがわかっていたので、地域や保護者も巻き込んで、長期的な取り組みになるものをと計画しました。そうして全体の教育活動としての食育を位置づけて、活動が始まったのです」と、言う。地域と親と学校が連携した、最もいい形のモデルと言えるだろう。(ライター、金丸弘美)

徳之島町立神之嶺小学校

鹿児島県大島郡徳之島町神之嶺391

電話0997−82−0848

 2007年1月4日