書評
    食べる。    (しんぶん赤旗 2011年12月11日掲載)

「食べる。」中村安希(著) 集英社

なかむら・あき 1979年生まれ。『インパラの朝』『Beフラット』。集英社・1400円

 エチオピアのインジェラ、スリランカのサンボル、ルーマニアの卵焼きとコンポートなどなど、著者が訪ねた15カ国の人と食との出会い。
 スーダンの水はなかでも際立っている。からから喉の渇きに提供される家庭の甕に蓄えられたしょっぱさと硬水特有の粉っぽい舌触りもあるというナイル川の水。
 料理や食事は、とても素朴な生活のなかの食。だがやたら五感を刺激する。
 スリランカの辛いサンボル。緑の葉、ココナツの搾りかす、玉ねぎ、ライム、塩、こしょう、青唐辛子、かつお節が原料。それをライスに混ぜて、となるのだが、そのなかの塩も玉ねぎも、ライスも私たちが日常手に入れるスーパーのものとは、きっと違うのだろう。
 塩は少し茶褐色で塩辛さに酸味も、どことなく甘みも複雑にもっているに違いない。玉ねぎは小ぶりで、辛みとすこぶるのうまみと土臭さがあるのだろう、などと、食材の持ち味を一つずつ探している。頭でイメージを描きながら、なぜか口の中がうごめくようなのだ。
 サンボルには酸味も苦みもあって、複雑なうまみを持ち合わせ、かみ砕くと、それがじっくり体内に溶け込んでいくに違いない。その体内への行き渡り具合さえ体に響いてくるような感じがする。
 エチオピア原産のイネ科の穀物を発酵させた生焼けのクレープのようだというインジェラ。酸味があってぼろぼろの雑巾のようで、しかし癖になるという食べ物。いったいどんな味わいなのだ。
 鼻孔がふくらみ、舌がうごめき、料理を創造することで鼻や目や味蕾までを刺激する。土地と暮らしと風土と歴史に刻まれた生命をつかさどるまぎれもない食の姿がある。著者の体内を通して旅と国とが浮かび上がってくる。